更年期の女性は、閉経前後で女性ホルモンが急激に減少し、ホルモンバランスも崩れるため、それまで女性ホルモンに、守られていた体の健やかさが保てなくなります。
自律神経が乱れて呼吸や代謝、発汗など体の重要な仕組みがうまく回らなくなり、のぼせや動悸、めまい、イライラなどの症状が出てきます。
髪のコシや肌の張りも衰え、薄毛や乾燥肌に悩まされるようになります。
こうした辛い症状や悩みを、女性ホルモンを補うことで解決するのが、女性ホルモン補充療法(HRT)です。
更年期の辛さを緩和するだけでなく、若々しさを保ち、性生活や老後の健康にも効果があります。産婦人科や病院の女性外来で受けられます。
ホルモン補充療法の流れ
一口に更年期世代といっても、体は一人ひとり違います。
どんな症状が辛いのか、女性ホルモンはどれだけあるのか、健康状態・病歴はどうかなど、詳しく調べてからその人に合った治療方針を決定します。
またこの療法が適さない人もいます。
治療開始まで
- 問診:辛い症状やその程度・始まった時期、生理周期と最終生理、本人と家族の病歴、家庭環境などを調べます。
- 内診:子宮筋腫や卵巣のう腫など、婦人科系の異常がないかどうか調べます。
- 採血:血液中のホルモン量や、血糖、コレステロール、肝機能、腎機能等を調べます。
- 骨量測定:骨密度を測って骨粗しょう症の危険度を調べます。
- がん検診:子宮がんと乳がんの検診を行います。どちらかにがんが見つかれば、ホルモン補充療法は行わず、がん治療を先行します。
主に使われる薬
- エストロゲン(卵胞ホルモン)剤
・飲み薬、貼り薬、塗り薬、膣錠(挿入)の4タイプで、最も種類が多くあります。
・飲み薬は手軽ですが胃腸や肝臓への負担があり、貼り薬は作用が強力ですが、かぶれる恐れがあります。
・膣錠は肝臓に負担をかけず、膣粘膜の乾きに有効です - プロゲステロン(黄体ホルモン)剤
・エストロゲン剤の作用を補う目的で使われます。プロゲステロン単独の飲み薬、エスト
・ロゲンとプロゲステロン両方を配合した飲み薬・貼り薬があります。 - 男女混合ホルモン
・男性ホルモンのテストステロンと、エストロゲンを混合した薬剤です。3?4週間に1
・回注射します。女性ホルモンだけ補充するより、自律神経を調整する効果が高いです。
治療の終了
治療中は定期的に検診を受けて、乳房のむくみや不正出血などの、副作用がないか確認し、薬を調整します。
辛い症状が改善されてきたら、徐々に薬の量を減らし、4?5年で治療を終えるのが一般的です。
メリットとデメリット
女性ホルモン補充療法の効果として、次のような事柄が挙げられます。
メリット
- のぼせやほてり、多汗、動悸の軽減
- だるさや無気力感、頭痛の緩和
- 皮膚の乾燥やシワを防ぐ
- 性交痛の改善
- 骨粗しょう症の予防
- うつ病の予防
- 高血圧、動脈硬化など生活習慣病予防
デメリット
一方デメリットとしては、気分が悪くなったり、乳房が張る、体がむくむ、不正出血などの、副作用が起きることがあります。
また、乳がんや子宮がんのリスクが上がると、懸念する声がありますが、逆に乳がんリスクが減るとの指摘もあります。
女性ホルモン補充療法を受けるか、どうかは個人個人の判断ですが、選択肢の1つとして知っておくのは良さそうです。
また漢方と併用して効果を上げている例もあります。
年取ってからでも受けられる
今は平均寿命が延びたことで、更年期以後も約30年の長い人生が待っています。
更年期特有の辛い症状が落ち着いても、今度は老化による膝・腰の痛みや、糖尿病・高血圧・動脈硬化など生活習慣病のリスクが高まってきます。
更年期以降もホルモン補充療法を続けた人は、こうした老化現象に悩まされず、元気に生活できているそうです。
治療を受けている人の中には、90歳代の患者さんもいます。
60~70歳代で新たに治療を開始しても、一度減った骨量を増やす効果が、確認されていますので、“生涯現役”を目指す人にとっては、選択肢となりうるでしょう。